【第8話】90歳の叔母が忘れられない我が家――施設に戻っても消えない「帰りたい」気持ち

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1.90歳の叔母が帰りたい場所

叔母さんは90歳。今は介護施設で暮らしています。

叔父さんも85歳で、足が悪く、車いすで生活しています。二人は別々の施設に入居しています。

以前、叔父さん夫婦の話を聞いたとき、二人が何度も口にしていたのは「家に帰りたい」という言葉でした。

長年暮らした家に戻りたい。いつもの部屋で過ごし、家族と一緒に食事を楽しみたい。

そんな思いがあったのだと思います。

ところが、1年以上ぶりに自宅へ戻ってみると、そこには思い描いていた暮らしはありませんでした。

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2.帰った我が家は、地震で荒れ果てていた

自宅の中は、地震の影響で大変な状態になっていました。

箪笥はひっくり返り、テレビも倒れ、台所の食器棚からは食器が散乱していました。

床には割れたガラスも残り、足の踏み場もないような状態でした。

これでは、すぐに以前の生活を再開することはできません。

叔母さんは、もう台所に立つことも難しい状態です。

家の中を片づけるだけでも大変ですし、毎日の食事や身の回りのことをどうするのかという問題もあります。

娘さんに罹災証明書を取ってもらい、ボランティアの方々に室内の片付けをお願いしました。

それでも、家で暮らし続けるためには、解決しなければならない問題が残っていました。

3.結局、二人は介護施設に戻ることに

あれほど「家に帰りたい」と願っていた叔父さん夫婦。

しかし、荒れた自宅を目の前にして、二人は再び介護施設へ戻ることになりました。

家に帰ることと、そこで安全に暮らし続けることは違います。

家が安全な状態になっているか。食事を作れるか。入浴や移動はできるか。必要な支援を受けられるか。

こうした条件が整わなければ、住み慣れた家でも生活を続けるのは難しい場合があります。

施設に戻ることは、二人にとって簡単な決断ではなかったかもしれません。

それでも、これからの暮らしを考えれば、支援を受けられる場所に戻る必要があったのでしょう。

4.施設に戻っても、自宅への思いは消えない

叔母さんは再び施設で暮らすことになりました。

施設には、食事や身の回りの支援を受けられる安心があります。

一方で、叔母さんの心の中には、自宅への思いが残っているようです。

長年暮らしてきた家には、思い出が詰まっています。

いつもの部屋、使い慣れた家具、家族と過ごした時間。

そうしたものは、簡単に忘れられるものではありません。

施設で安全に暮らせることと、自分の家で心から落ち着いて暮らすことは、同じではないのでしょう。

叔母さんにとって自宅は、ただ住むための建物ではありません。

自分が長い年月を過ごしてきた、大切な場所なのだと思います。

5.「帰りたい」という気持ちを、どう受け止めるか

高齢になり、介護が必要になると、本人の希望どおりに生活できないことがあります。

体の状態や住まいの環境、家族の支援など、さまざまな事情があるからです。

それでも、「家に帰りたい」という気持ちを、簡単に諦めさせてよいのでしょうか。

すぐに自宅で暮らすことが難しい場合でも、家族との外出や一時帰宅など、実現できる方法があるかもしれません。

施設の職員さんやケアマネジャーなどに相談し、本人が何を望んでいるのかを確認しながら、できることを探すのも一つの方法です。

もちろん、本人の安全を守ることも大切です。

自宅の状態や介護の体制を確認し、無理のない方法を考える必要があります。

大切なのは、本人の希望を最初から否定するのではなく、その思いを理解しようとすることではないでしょうか。

6.住む場所と、心の居場所

今回、叔母さんの話を通して、私は考えさせられました。

人は年齢を重ねても、自分の居場所を求めるものです。

安全に暮らせる場所があっても、そこが心から落ち着ける場所とは限りません。

反対に、住み慣れた家であっても、体の状態や家の被害によって、暮らし続けることが難しくなる場合があります。

叔母さんの「家に帰りたい」という思いは、私たちに、住まいとは何か、安心して暮らすとはどういうことかを考えさせてくれます。

自宅で暮らすことも、施設で暮らすことも、それぞれに良さと難しさがあります。

だからこそ、本人の気持ちを聞きながら、その人にとってできるだけ安心できる暮らしを考えていくことが大切なのだと思います。

帰りたい家がある。でも、そこでは暮らせない。

90歳の叔母さんの姿から、私は、介護では安全だけでなく、心の居場所も大切なのだと感じました。

皆さんにとって、いつまでも大切にしたい「自分の居場所」は、どこでしょうか。