1.帰りたかった我が家。でも、暮らせる家ではなかった
叔父さん85歳、叔母さん90歳。
二人は1年以上ぶりに自宅へ帰りました。
しかし、そこで目にしたのは、地震の影響で荒れ果てた我が家でした。
箪笥はひっくり返り、テレビは倒れ、台所には食器が散乱。割れたガラスも残り、以前のような生活をすぐに始められる状態ではありませんでした。
二人は、ずっと「家に帰りたい」と話していました。
ところが、実際に帰ってみると、家に住み続けることの難しさを思い知らされたのです。
娘さんに罹災証明書を取ってもらい、ボランティアの方々に室内の片付けをお願いしました。
それでも、家を元の暮らしに戻すには、多くの問題が残っています。
叔母さんは台所に立つことができません。叔父さんも、荒れた家で暮らし続けることを諦め、介護施設に戻ることを考えました。
こうして二人は、今まで暮らしていた介護施設へ戻ることになったのです。
2.叔母さんの心には、今も自宅が残っている
施設に戻った叔母さん。
しかし、心の中では、やはり自宅が自分の居心地のよい場所なのだと思います。
長年暮らした家には、たくさんの思い出があります。
使い慣れた台所、いつもの部屋、家族と過ごした時間。
施設で安全に暮らせるとしても、自分の家と同じ気持ちにはなれないのでしょう。
もちろん、介護施設には食事や身の回りの支援を受けられる安心があります。
けれども、安心して暮らせることと、心から落ち着けることは、必ずしも同じではありません。
叔母さんの「やっぱり家がいい」という思いを、簡単に消すことはできないのです。
3.叔父さんの悩みは、お金を自由に使えないこと
一方、叔父さんには、もう一つの悩みがありました。
それは、自分のお金を自由に使えないことです。
叔父さんが入居している施設では、現金を手元に持つことが認められておらず、お金は施設側で管理されています。
安全管理などの理由があるのでしょうが、本人にとっては、以前と大きく違う生活です。
特に叔父さんが困っているのは、自分の好きなものを自分で買えないことでした。
大好きなビールを飲みたいと思っても、自分でお店に行き、お金を払って買うことができません。
欲しいものがあれば、誰かにお願いする。
自分のお金があっても、自由に使えない。
このもどかしさは、本人にしか分からない部分もあると思います。
4.外出先では、親族が支払う生活に
叔父さん夫婦が親族と外出すると、食事代などの支払いは、誘った親族が負担することになります。
叔母さんは「私、お金ないんだから、よろしく」と話します。
冗談のように聞こえるかもしれません。
しかし、自分でお金を払う機会がなくなり、誰かに頼らなければならない生活を考えると、複雑な気持ちになります。
以前なら、自分の財布からお金を出して支払うことができたでしょう。
ところが、施設での暮らしでは、それが難しくなっています。
年齢を重ね、介護が必要になっても、欲しいものを買いたい気持ちは変わりません。
自分で選び、自分のお金で支払うことは、単なる買い物ではなく、自分らしく生活することにもつながっているのではないでしょうか。
5.介護を受けても、自分らしさは失いたくない
今回の叔父さん夫婦の話から、私は考えさせられました。
介護施設に入れば、安全に暮らすための支援を受けられます。
しかし、住む場所が変わるだけでなく、お金の管理や買い物、外出など、生活の仕方も大きく変わる場合があります。
施設には施設の決まりがあります。そのため、本人の希望をすべてかなえることは難しいかもしれません。
それでも、本人が何に困っているのかを聞き、できる方法を考えることは大切です。
例えば、施設の職員さんや相談員に、お金の管理方法や、本人が必要なものを購入する手順について相談することができます。
施設の規則を確認しながら、本人が希望する買い物や外出を、できる範囲で実現できないか考えてみることも必要でしょう。
6.安心して暮らすことと、自由に暮らすこと
叔父さん夫婦は、地震の影響で自宅に住み続けることが難しくなり、介護施設に戻りました。
叔母さんには、自宅への思いが残っています。
叔父さんには、自分のお金を自由に使えないもどかしさがあります。
二人が直面している問題は違いますが、共通しているのは、以前のような暮らしができなくなったことです。
介護を受けることになっても、好きなものを買いたい。自分の家で暮らしたい。自分でできることは自分でしたい。
そんな思いは、何歳になっても大切なのだと思います。
安全に暮らせる場所を確保すること。そして、その人らしい暮らしをできるだけ守ること。
介護を考えるとき、この二つを忘れないようにしたいものです。


