1.介護施設で聞いた「家に帰りたい」という言葉
叔父さん夫婦の介護施設を訪ね、心に残った言葉があります。
それは、「家に帰りたい」という言葉でした。
叔父さんは85歳、叔母さんは90歳。二人は現在、別々の介護施設で暮らしています。
二人が望んでいるのは、特別な旅行でも、ぜいたくな暮らしでもありません。
家に帰り、暖かいスープを飲む。そして、家族と一緒に食卓を囲み、何気ない話をしながら過ごす。
そんな、これまで当たり前だった日常に戻りたいのです。
私たちは、毎日家で食事をし、テレビを見て、家族と話をする生活を、当たり前だと思っているかもしれません。
しかし、その当たり前の暮らしが、ある日突然できなくなることがあります。
今回の話は、実際にあった出来事です。
2.二人が自宅を離れることになった理由
昨年の5月までは、叔父さん夫婦は自宅で生活していました。
ところが、叔母さんがケガをして、料理を作ることが難しくなりました。
その後、叔母さんは入院することになりました。
それまで食事を作ってくれていた人がいなくなり、足が悪く、車いすで生活する叔父さんも、自宅で暮らし続けることが難しくなりました。
こうして叔父さんは、介護施設に入居することになったのです。
一方、叔母さんも入院中に認知症の疑いがあり、病院から介護施設へ移ることになりました。
二人とも、年齢を重ねたことで必要な支援が増えました。
本人たちが望んで施設に入ったというよりも、ケガや体の状態、食事の問題など、生活を続けるうえでの事情が重なったのです。
家で暮らしたいと思っていても、食事や身の回りのことを支える人がいなければ、生活を続けるのは簡単ではありません。
これは、本人の気持ちだけでは解決できない、介護の難しさだと思います。
3.約1年が過ぎ、恋しくなった自宅
施設での暮らしが始まってから、約1年が過ぎました。
安全に暮らせる場所があることは、大切です。
食事や介護の支援を受けられることも、本人や家族にとって安心につながります。
それでも、長年暮らした家への思いは、簡単には消えないのでしょう。
自分の家なら、使い慣れた食器があります。いつもの部屋があり、思い出の詰まった家具があります。
何時に起きても、どこでくつろいでも、自分の生活のリズムがあります。
施設での生活が悪いということではありません。
ただ、施設での暮らしと、自分の家で過ごす暮らしは、同じではないのです。
「暖かいスープを飲みたい」「家族と団らんしたい」という願いは、特別なわがままではありません。
自分が長年暮らしてきた場所で、いつもの生活を送りたいという、ごく自然な気持ちではないでしょうか。
4.熊本地震の影響で、自宅の状態も分からない
さらに心配なのが、自宅のことです。
叔父さん夫婦は、熊本地震の影響もあり、自宅を離れて1年以上が過ぎています。
そのため、今、家の中がどうなっているのか、十分に分からない状態です。
家に帰りたいと思っても、家が以前と同じ状態で残っているとは限りません。
建物の傷みはないか。家具や荷物はどうなっているか。水道や電気は使えるのか。
実際に戻って暮らすには、確認しなければならないことがあります。
また、叔父さんは車いすでの生活です。自宅に段差があれば、移動できるように工夫する必要があるかもしれません。
叔母さんについても、認知症の疑いがあるため、安心して生活できる環境や、必要な見守りについて考えなければなりません。
家に戻りたいという気持ちを大切にすることと、実際に安全に暮らせること。その両方を考える必要があります。
5.家に帰ることは、本当にできないのでしょうか
では、二人が自宅に帰ることはできないのでしょうか。
今の段階では、いつ帰れるのか、帰宅が実現するのか、はっきりとは分かりません。
しかし、すぐに無理だと決めつけるのではなく、できる方法がないかを考えることはできると思います。
例えば、次のようなことです。
- 自宅の建物や室内の状態を確認する
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)や施設の担当者に相談する
- 車いすで移動できるよう、段差やトイレなどを確認する
- 食事を作る人がいない場合、配食サービスなどを利用できるか調べる
- 在宅介護サービスや家族の支援を組み合わせられるか相談する
- 自宅で暮らすことが難しい場合も、一時帰宅や短時間の訪問が可能か確認する
もちろん、これらを実現できるかどうかは、自宅の状態や本人の健康状態、介護の体制によって変わります。
家族だけで抱え込まず、介護の専門職や自治体の相談窓口に相談しながら、一つずつ可能性を探ることが大切です。
無理に自宅へ戻すことが、必ずしも本人のためになるとは限りません。
それでも、本人が何を望んでいるのかを聞き、その思いを出発点に考えることはできるはずです。
6.介護で大切なのは、安全だけではない
今回、叔父さん夫婦の話を聞いて、改めて考えさせられました。
介護施設には、食事や介護を支えてくれる安心があります。
一方で、本人には本人の思いがあります。
住み慣れた家に帰りたい。暖かいスープを飲みたい。家族と一緒に食卓を囲みたい。
その願いは、介護する側の都合だけで簡単に片づけられるものではありません。
もちろん、家族にも生活があります。仕事や健康、経済的な事情があり、すべての希望をかなえることは難しい場合もあります。
だからこそ、本人、家族、介護に関わる人たちが話し合い、できることを探していく必要があるのだと思います。
7.いつもの日常こそ、大切なものかもしれない
私たちは、元気なうちは自宅で暮らせることを、あまり意識しません。
好きなときに台所へ行き、温かいものを食べ、家族と話す。
そんな普通の一日が、実はとても大切なものなのかもしれません。
叔父さん85歳、叔母さん90歳。
二人が願うのは、家に帰り、暖かいスープを飲み、家族と団らんすることです。
自宅を離れて約1年。帰りたい家が今どうなっているのかも分からず、いつ帰れるのかも分からない。
その不安や寂しさを思うと、胸が痛みます。
介護とは、ただ体の世話をすることだけではないのだと思います。
その人が何を大切にしてきたのか、どんな暮らしを望んでいるのか。その思いにも耳を傾けることが大切です。
「家に帰りたい」という願いを、どうすれば少しでもかなえられるのか。
私たち一人ひとりが、家族の介護や自分自身の老後を考えるきっかけになればと思います。
皆さんは、住み慣れた家で暮らし続けるために、何が必要だと思いますか。

