1.外出先で叔母さんが口にした言葉
叔父さん85歳、叔母さん90歳。
二人は、今、別々の介護施設で暮らしています。
以前は自宅で生活していましたが、叔母さんのケガや入院、そして地震による自宅の被害などが重なり、以前の暮らしに戻ることが難しくなりました。
そんな二人を、親族が外出に誘うことがあります。
久しぶりに外へ出て、食事をしたり、親族と話したりする時間は、二人にとって楽しみの一つでしょう。
ところが、外出先での支払いには、少し事情があります。
食事代などは、二人を誘った親族が負担することになるのです。
そんなとき、叔母さんはこう話します。
「私、お金ないんだから、よろしく」
何気ない一言かもしれません。
しかし、この言葉の背景には、施設に入居してから変わったお金との付き合い方がありました。
2.お金がないのではなく、自由に使えない
叔母さんが話す「お金がない」という言葉。
それは、必ずしも本人に財産がないという意味ではありません。
叔母さんが入居している施設では、現金を手元に持つことが認められておらず、お金は施設側で管理されています。
そのため、外出先で食事をしても、自分で財布を出して支払うことができません。
もちろん、施設には安全管理などの事情があります。金銭管理の方法や、入居者が現金を持てるかどうかは、施設によって異なります。
ただ、本人の立場から考えると、以前は自分でできていた支払いが、誰かに頼らなければできなくなったのです。
自分のお金があっても、自分で自由に使えない。
この変化は、本人にとって大きなものなのかもしれません。
3.叔父さんも、欲しいものを自分で買えない
85歳の叔父さんにも、同じような悩みがあります。
叔父さんは大好きなビールを、自分で買うことができません。
以前なら、欲しいものがあれば、自分でお金を出して買うことができたでしょう。
しかし、施設で暮らすようになってからは、何か欲しいものがあっても、職員さんなどにお願いする必要があります。
年齢を重ね、介護を受けるようになっても、好きなものを買いたいという気持ちは変わりません。
自分で選び、自分のお金で支払う。
その何気ない行動が、自分らしく暮らしているという実感につながることもあると思います。
4.支える親族にも、それぞれの生活がある
一方で、二人を支える親族にも、それぞれの生活があります。
外出に誘い、食事を一緒に楽しみ、支払いも引き受ける。
親族だからこそ、できる支援もあるでしょう。
二人が喜んでくれれば、誘った側もうれしいものです。
しかし、外出のたびに食事代などを負担することになれば、支える側にも費用や時間が必要になります。
親族にも、仕事や家庭、自分たちの暮らしがあります。
だからといって、支援を断ればよいという話ではありません。
大切なのは、本人の希望を尊重しながら、支える側だけに負担が偏らない方法を考えることです。
例えば、外出の費用を事前に相談する、施設での買い物の方法を確認する、本人が希望する外出の機会を無理のない範囲で計画するなど、できることはあるかもしれません。
5.本人も家族も、無理をしない仕組みを
では、どうすればよいのでしょうか。
まずは、施設の職員さんや相談員に、お金の管理方法や買い物の支援について相談してみることです。
預けているお金をどのように使えるのか、本人が欲しいものを購入するにはどうすればよいのかを確認します。
また、親族で外出するときには、誰がどの費用を負担するのか、あらかじめ話し合っておく方法もあります。
本人が自由に使えるお金の範囲や、施設の決まりを確認しながら、本人も家族も安心できる方法を探したいものです。
本人の希望を大切にすることと、支える側が無理をしないこと。
この二つは、どちらか一方を諦めなければならないものではないと思います。
6.介護は、本人だけでなく家族の暮らしにも関わる
叔母さんの「私、お金ないんだから、よろしく」という言葉。
そこには、自分で自由に支払えない生活の現実があります。
そして、その言葉を受け止め、支払いを引き受ける親族にも、さまざまな思いがあるでしょう。
介護の問題は、本人だけの問題ではありません。
住む場所、お金、外出、家族との付き合い方。
さまざまなことがつながっています。
介護を受けるようになっても、自分らしく暮らしたい。
一方で、支える家族にも、自分たちの生活があります。
本人の希望を大切にしながら、支える家族も無理をしない。
そのために何ができるのか、元気なうちから家族で話し合っておくことも大切なのではないでしょうか。


