第7話 「生まれてきてよかった」と思えた瞬間を、10個書き出してみた。自分の人生の宝物リスト

これからの時代におすすめ
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書き始めたら、止まらなかった

最初は、10個なんて出てくるだろうかと思っていた。

でも——書き始めたら、止まらなかった。

むしろ、10個に絞ることの方が難しかった。

迷いながら、悩みながら——77年の中から、10個を選んだ。

これが——後期高齢者が辿り着いた、自分の人生の宝物リストだ。


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宝物その一

娘が産まれた朝——世界が変わった瞬間

分娩室の前の廊下で、何時間も立っていた。

産声が聞こえた瞬間——廊下でひとり、泣いた。

分娩室に入ると、妻が疲れ果てた顔で微笑んでいた。小さな命を胸に抱いて。

「見て、かわいいでしょ」と妻が言った。

娘の顔を初めて見た瞬間——言葉が出なかった。

こんなに小さな命が、世界に生まれてきた。 私が父親になった。

それまでの人生で感じたことのない感覚が——胸の底から溢れてきた。

「生まれてきてよかった」と初めて、心の底から思った瞬間だった。

あの産声が——今も耳に残っている。


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宝物その二

息子が初めて「お父さん」と呼んだ日

息子がまだ一歳か二歳の頃。

「お父さん」と——初めて、私を呼んだ。

拙い発音で、でも確かに「お父さん」と言った。

そのとき私は——自分がこの子の「お父さん」なのだと、初めて実感した。

父親になって何年も経っていたのに。

でも——あの一言で、何かがカチリとはまった気がした。

この子を守らなければならない。この子のために、生きなければならない——そういう覚悟が、あの一言で生まれた。

息子よ。今のお前は知らないだろうが——あの「お父さん」という一言が、父親としての私を作ったのだ。


宝物その三

妻が初めて笑いかけてくれた日

出会った頃のことだ。

何度か食事をして——ある日、妻が笑った。

それまでも笑っていたはずだ。でも——その日の笑顔は、何かが違った。

心を開いてくれた笑顔だと、わかった。

「この人と一緒にいたい」と——初めて、真剣に思った瞬間だった。

地味な出会いだったと書いたが——あの笑顔は、地味ではなかった。

50年経った今も——あの笑顔が、全ての始まりだったと思っている。

あの笑顔を見られたから、今がある。


宝物その四

仕事で初めて、誰かの役に立てたと実感した日

若い頃のことだ。

仕事を始めて数年が経った頃——初めて、自分の仕事が誰かの役に立ったと実感した日があった。

取引先の担当者が、わざわざ電話をくれた。

「あなたのおかげで、助かりました」

その一言だった。

自分の存在が、誰かの力になれた。

その実感が——どれほど嬉しかったか。

仕事を「生活のため」から「誰かのため」に変えてくれた、一本の電話だった。

あの電話がなければ——仕事に情熱を持てなかったかもしれない。


宝物その五

故郷の川で、父と並んで釣りをした朝

小学生の頃だったと思う。

父が珍しく休みを取って、二人で川に釣りに行った。

早朝だった。まだ空が薄暗くて、川面が朝靄に霞んでいた。

父と二人で、並んで糸を垂らした。

何時間も、ほとんど言葉を交わさなかった。

でも——その沈黙が、温かかった。

父と二人でいる。ただそれだけで——満たされていた。

結局、その日は何も釣れなかった。

でも今でも——人生で一番豊かな釣りの記憶は、あの朝だ。

父よ。あの朝のことを、ありがとう。


宝物その六

人生で初めて見た絶景の前で、涙が出た瞬間

これは——つい最近のことだ。

娘が連れて行ってくれた旅行で、生まれて初めて見た絶景の前に立ったとき。

どこまでも続く青い海。

空と海の境界線が、どこにあるかわからないほど——世界が青に満ちていた。

言葉が出なかった。声が出なかった。 気づいたら——涙が出ていた。

80年近く生きてきて、まだこんな景色に出会えるとは思っていなかった。

まだ「初めて」が残っていた。

まだこんなに胸が震えることがあった。

「生まれてきてよかった」と——声に出さずに、思った。

あの涙は——77年分の感動が、一度に溢れ出たものだったのかもしれない。


宝物その七

孫が初めて、私の膝に眠った午後

孫がまだ小さかった頃のことだ。

遊び疲れた孫が——気づいたら、私の膝の上で眠っていた。

重くて、動けなかった。

でも——動きたくなかった。

この重さが、愛おしかった。

孫の寝顔を眺めながら——娘が幼かった頃のことを思い出した。息子が幼かった頃のことを思い出した。

時間は流れるのだと思った。

でも——こうして膝の上で眠る命がある限り、時間は美しいのだと思った。

あの午後の、孫の温もりが——今も手のひらに残っている気がする。


宝物その八

娘と二人で歩いた、城下町の石畳の午後

旅先での出来事だ。

妻が足を休めている間、娘と二人で石畳の路地を歩いた。

「小さい頃、よくこうして歩いたね」と娘が言った。

時間が、一気に巻き戻った気がした。

手を繋いで歩いていた小さな娘が——もうすぐ50歳になる娘として、今も私の左側を歩いている。

立場が逆になっても——父と娘の温度は、何も変わっていなかった。

石垣の前で娘が言った。

「お父さんって、この石垣みたいだよね。どっしりしてて、安心する感じ」

後期高齢者の父親が、娘にそう見えていたのか。

あの言葉は——生涯で最も嬉しかった褒め言葉かもしれない。


宝物その九

息子に釣り竿を渡した午後の、四文字

生前贈与として——息子に、長年愛用してきた釣り竿を渡した日のことだ。

息子が竿を手に取って、継ぎ目をそっと指でなぞった。

私がさっきやったのと、まったく同じ動作だった。

血というのは、不思議だな——と思った。

「お前のところへ行くのが、一番いいと思った」と私が言うと。

息子は顔を上げて——こう言った。

「大切にする」

たった四文字だった。

でも——その四文字の中に、息子の全部が入っていた気がした。

不器用な父親と、不器用な息子。ぶつかってばかりだった二人が——釣り竿一本で、静かに繋がった午後だった。

あの四文字のために、父親をやってきたのかもしれない。


宝物その十

今朝の縁側で飲んだ、一杯のお茶

最後の一つを、何にするか——迷った。

旅の思い出か。家族の記念日か。仕事の大きな達成か——いくつも候補が浮かんだ。

でも——最終的に選んだのは、今朝のことだ。

いつものように早く目が覚めた。

妻がまだ眠っている横で、そっと布団を出た。

縁側に出た。

庭の木が、朝の光を受けて揺れていた。

鳥の声がした。

空気が、冷たくて、気持ちよかった。

お茶を一口飲んだ。

温かかった。美味しかった。

それだけだ。

特別なことは、何も起きなかった。

でも——その一杯のお茶が、今朝の私には「生まれてきてよかった」と思えた瞬間だった。

77年間生きてきて、今朝この縁側に座れること。 この温かさを感じられること。 この空気を吸えること。

それだけで——十分すぎるほど、生まれてきてよかった。


リストを書き終えて、気づいたこと

10個のリストを書き終えて——しばらく、眺めた。

気づいたことがある。

「生まれてきてよかった」と思えた瞬間は——どれも、大きな出来事ではなかった。

有名になった日でもなかった。大金を手にした日でもなかった。世界を変えるような仕事をした日でもなかった。

産声が聞こえた朝。息子の「大切にする」という四文字。妻の笑顔。父と並んで釣りをした沈黙。今朝のお茶の温かさ——。

どれも、ごく普通の、日常の中の一瞬だった。

人生の宝物は——遠くにあるのではなかった。

ずっとそこにあった。

ただ——気づかないまま、通り過ぎていたのだ。


あなたの宝物リストを、書いてほしい

このリストを書きながら——一つ、思ったことがある。

このリストは、書いた本人より——残された家族への贈り物になるかもしれない。

私がいなくなった後、娘がこのリストを読んだとしたら。

「宝物その八」に自分たちのことが書いてあるのを読んだとしたら——どんな顔をするだろう。

息子が「宝物その九」を読んだとしたら——あの四文字がここに記されているのを知ったとしたら——どんな気持ちになるだろう。

妻が「宝物その三」を読んだとしたら——50年前の笑顔が、今も夫の宝物リストにあると知ったとしたら——。

「ありがとう」の手紙より、このリストの方が——伝わることがあるかもしれない。

あなたにも——「生まれてきてよかった」と思えた瞬間が、きっとある。

大きな瞬間でなくていい。

誰かに話すような話でなくていい。

ただ——あの朝の光。あの声。あの温もり。あの景色——。

紙に書き出してみてほしい。

書いていくうちに、きっと気づく。

自分の人生は——宝物だらけだったということに。


縁側に出た。

今日も、庭の木が揺れていた。

鳥が、一声鳴いた。

お茶を一口飲んだ。

「生まれてきてよかった」と——今日も、思えた。

それだけで、今日という日は——十分だ。


次回・第8話「100歳の自分へ——23年後のあなたは、どんな顔をしていますか?まだ娘と旅に出ていますか?今日の私から、未来の私への手紙。」につづく……🌟


📝 読者の皆さんへ

今すぐ——紙を一枚、取り出してください。

「生まれてきてよかった」と思えた瞬間を—— 思い出せるだけ、書き出してみてください。

10個でなくていい。 3個でも、1個でもいい。

きっと書き始めたら、止まらなくなります。

そしてそのリストを—— 大切な人に、いつか読んでもらってください。

あなたの宝物リストは—— あなたが思っている以上に、 誰かにとっての「宝物」になります。

人生は、宝物だらけです。 ただ——気づくことを、忘れないでください。🌟🌸